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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(行ツ)91号 判決 1968年6月27日

上告人

神戸税務署長

福本利治

右指定代理人

林倫正

ほか四名

被上告人

山下直次

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人鰍沢健三、同光広竜夫、同嵯峨時重、同西村和典の上告理由一について。

被上告人の昭和二四年度の所得金額および所得税額更正処分の取消訴訟において、上告人が右処分は違法でない旨を主張し、請求棄却の判決を求めたこと並に右訴訟は上告人の勝訴に終り、その判決の確定した事実は、当事者間に争いのないところである(論旨は、右訴訟において更正処分のみならず加算税、追徴税についての取消も求められたものとするが、原審における上告人の主張に徴するも、その事実は認められない。)。右訴訟の結果確定するのは、右更正処分に違法のない点にあるにしても、実質上は右更正処分による増加税額を否定する被上告人に対して右増加税額の負担を確定するのと同様の結果をもたらすことに思いを致せば、会計法三一条に基づき民法の消滅時効中断に関する規定を準用し、上告人の前記応訴行為をもつて裁判上の請求の一態様と解し、これに被上告人に対する所得税徴収権の時効中断の効力を認めるのを妨げないとする所論は、首肯できないものではない。しかしながら、係争の加算税、追徴税、利子税、延滞加算税の諸税(以下加算税等と称する。)は、いずれも所得税本税の未納額の存在を原因とする点で共通であるにしても、当時の税法によりそれぞれ所得税本税とは別個の賦課あるいは確定の手続をもつて具体化されて納付を命ぜられたものであることにかんがみれば、前記訴訟における上告人の応訴行為によつて訴訟上右加算税等の徴収権を主張したことになるものではなく、また所得税本税徴収権についての時効中断が当然右加算税等の徴収権の時効を中断するものとも解せられない。してみれば、結局これと同旨の結論を示して上告人の主張を排斥した原判決は失当とはなしがたく、論旨は理由がない。

同二について。

金銭の給付を目的とする国の権利についての消滅時効の中断に関しては、適用すべき他の法律の規定のないときは民法の規定を準用すべきものとする会計法三一条が、国税徴収権について適用あることはいうまでもない。されば、その徴収につき旧国税徴収法(明治三〇年法律第二一号)の適用される本件において、徴税機関が未納税額につき納付を催告し、その後六箇月内に差押等の手段をとつたときは、民法一五三条の準用により、時効の中断を認めざるを得ない。旧国税徴収法が未納税額の納付催告の方法として特に督促を設け、これを民法一五三条の規定にかかわらず時効中断の効力を生ずるものと規定したこと(同法九条一二項)から、かかる特則の存する以上、催告による国税徴収権の時効の中断は、右督促の手続によるもの以外には認められず、民法一五三条の準用の余地はないものとする原判決の見解は是認できない。原判決は、租税法律関係の具体的成立過程における行政権の認定判断の優越性、関係当事者の不対等関係、国税徴収権の自力執行性等をあげて、催告による時効の中断については国税は私法上の債権と同様に、取り扱わるべきものではなく、またそのように取り扱う必要のないことを理由とする。しかし、旧国税徴収法が徴収手続において督促を定めたのは未納税額につき強制徴収に移るにあたり、突如強制的手段に出ることなく、一応さらに納期限を定めて催告するのを相当とし、督促をもつて滞納処分開始の要件としたからであつて(同法一〇条)、徴税機関が督促以外の方法によつて納付を催告慫慂することを許さないものではないし、それが徴収手続上では格別な法的意味をもたないものにしても、その催告のあつた事実に納付要求の意義を認めて法が時効中断の効力を付与できないものでもない。また国税徴収権が自力執行を可能とするからといつて、時効中断について一般私法上の債権よりも課税主体にとつて不利益に取り扱わなければならない理由もない。してみれば、本件において上告人が被上告人に対し昭和三四年二月九日加算税等の未納額を納付すべき旨の催告書を発し、右書面は同月一一日被上告人に到達し、その後六箇月内である同年五月一一日本件差押処分がなされたという当事者間に争いのない事実について、時効中断を認められないとした原判決は、所論のように、法律の解釈適用を誤つたものといわなければならない。もつとも、前示上告人の催告の当時において、本件係争の加算税等の未納額のすべてにつきすでに消滅時効完成の状態にあつたとすれば、右の違法は判決の結果に影響を及ぼさない理であるが、原判決の判断によるも、利子税額のごとき当時なお時効完成に至らない部分を認めることができる。従つて、原判決は破棄を免れないが、かかる残存税額による本件差押物件に対する差押の当否等に関しても、なお問題なきを保しえないので、さらに審理の必要あるものと認め、本件を原審に差戻すのを相当とする。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。(岩田誠 長部謹吾 松田二郎 大隅健一郎 入江俊郎海外出張のため署名押印することができない)

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